大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和45年(ワ)1307号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕原告は、芝税務署長および東京都知事がした右課税処分および辰美産業が昭和四一年三月一日から昭和四二年二月二八日までの事業年度の法人税、法人事業税および法人都民税についてした右納税申告はいずれも辰美産業の所得額を過大に誤認した違法のものであるから、右課税処分ならびに納税申告に従つて辰美産業が納付した右税額のうち誤認所得相当分を被告らが保留することは、被告らの不当利得となり、辰美産業は被告らに対しその利得の返還を求める権利がある旨主張する。

もとより、行政処分が法に適合してなされなければならないことはいうまでもないが、違法な行政処分であれば、いかなる場合にも法律上当然効力を生じないものではなく、行政処分の法適合性を保障する制度として争訟手続の途が開かれている場合には、原則として、その手続によつてのみ行政処分の効力を争うことができるに止まるものというべきである。ただ、争訟手続について一定の考慮(たとえば、行政処分の機能、性質およびそれによつて形成される法秩序の安全等)に基づいて定められた手続的要件を充たさないため、右手続によつてはその行政処分の効力を争いえないものとされる場合でも、その行政処分の違法性が重大であるため著しく不公正な結果をきたし、しかも、その違法性が客観的に明白であつて、何人にも容易に認識しうるというような特別の事情がある場合には、右争訟手続を経なくとも行政処分の効力はないものとしてその無効を主張し、それによつて生じた財産権の変動につき、直接、これを是正するための法律関係の主張をなしうるとするのが、行政争訟の制度を設けた趣旨に合致するというべきである。

そして、以上のことは、国民の権利義務に直接影響を及ぼす課税処分についても妥当するが、租税債権債務関係は本来大量的かつ反覆的に形成され、また事柄の性質上迅速な確定が期待されており、それ故に課税処分の違法を是正するうえでの争訟手続の果たす役割の重要性等に鑑みると、右の例外の場合に当るとして、訴訟上、課税処分の違法を主張し、よつて生じた財産権の変動(過誤納金)につき、不当利得の返還請求を主張する者は、その課税処分の違法性が前記のような意味で重大かつ明白であることの主張、立証を尽さなければならないものと解するのが相当である。

また、納税申告制度のもとでの納税申告は、納税義務者自身が課税標準および税額等の基礎となる要件事実を確認し、租税債務を具体的に確定して税務官庁に通知する私人の公法行為であり、申告行為によつて具体的な納税義務の確定という公法上の効果を生じるものであるから、その性格に鑑みれば、いつたんなされた納税申告は原則として租税法の定める手続(修正申告、更正の請求)によつてのみ是正することができるに止まるものというべきである。ただ、その申告の過誤が重大であり、かつ客観的に明白であつて、右手続以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情のある場合には、右手続を経なくても申告の効力がないものとしてその過誤を主張し、それによつて生じた財産権の変動(過誤納金)につき、不当利得の返還請求を主張しうるものと解するのが相当である。したがつて、これを主張する者は申告の過程について、それが右のような意味で重大かつ明白であり、右のような特段の事情のあることの主張、立証を尽さなければならないものと解するのが相当である。

しかるところ、原告は、右課税処分および納税申告がいずれも辰美産業の所得額を過大に誤認した違法のものであると主張するのみで、右誤認が前記のような意味で重大かつ明白であることについてはなんら主張していないのであるから、主張自体理由がないものというべきである。 (高津環 小木曾競 海保寛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!